画 家 の 策 略 - 2 -



「…さよなら。ケビン。」
言い捨てた僕は、ちゃんと笑えていただろうか。



お湯の中に、黄色の絵の具を溶かした。
化学的な匂いを消すためにバラのエッセンスを混ぜた。
ちょっと匂いがきつい?
でも色は紅茶そのものだ。
イーヴィサスは大して鼻は利かないから大丈夫だろう。

紅茶の隠し味に、二粒の涙。
僕は別に悪い事をしている訳じゃない。
あるべき所に返すだけ。
クリエは何も知らない。知らなくていい。

そしてケビンは、何の疑いもなく、飲み干した。



「うあ゛…!…ぁっ…!」
苦しそうな呻き声。
声は普通の人間と何ら変わらない。
這いつくばってのたうつケビンに背を向け、歩き出す。


「…待て…」
左足に重み。地を這う声。
「……往生際が悪いね…」
「…っ…はは、ははははは!」
「?」
「どっちが、だ!」
足を引かれてバランスを崩した。
そのまま倒れる。体が痛い。
馬乗りになったケビンは、目をギラギラ輝かせて笑っていた。
どういうこと?
「……え?」
「ははっ、その顔!ワケわかんねぇだろ!」
「…何で…飲んでたのに…?!」
「ははは、ははははは!あー楽しい!」
ケビンは乱暴にシャツを開いた。
鎖骨の下に、“カミサマ”の紋章。
「“カミサマ”の加護、ってやつだ。オレに毒は効かない。」

「聞いたぜ。今まで箱庭の警備を担当した兵は、数日後必ず死ぬって。
 ……お前が殺ったんだろ?みんな毒殺だったっていうしな…。」
「……だったら何だって言うんだ。僕達の身を守っただけさ…」
「はっ!言うねぇ。そんなに二人きりで過ごしたかったのか?」
「僕達は逃げる事も自殺する事も出来ない。だから警備なんて必要ないんだ。
 あの兵隊は僕達を虐待するために配属されたんだよ。」
「へぇ…じゃあ、オレも、期待に応えなくちゃなぁ。」
そう笑ったケビンの手には、絵の具のチューブがあった。

…しまった!
「ほら口を開けな!さっきの紅茶の礼をしてやるよ!」
顎を掴まれて顔を背ける事が出来ない。
歯を食いしばって抵抗しているうちに、ケビンはけたけたと笑い出した。
「怖がるなよ、楽しくなっちまうだろ!うっかり殺しちまいそうだ!」
…狂ってる。
そうだ。これが「イーヴィサス」 僕達が創り出した「兵器」

唐突に、ケビンは手を離し、チューブを投げ捨てた。
「エイド、オレは“殺さなければ何をしてもいい”って言われてる。だから殺さない。
 けど、それ以外の方法で可愛がってやるよ。」
そう言って、立ち上がる。
「今日はお前の怖がる顔が見れたから満足だ。それから、今後は壁周りも警備するぞ。」
ケビンは剣を提げ、箱庭の中へ向かった。
「…庭には入っても構わない。けれど…クリエには手を出すな。」
僕の声に彼は立ち止まり、振り返らずに言った。


「オレに壊されてもいいなら、明日もここに来な。」




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エイドの門番暗殺計画は失敗に終わりました。
そして今後も成功する見込みはありません。

20th Aug, 2009

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