●表情も発言も少なすぎて何考えてるのかわからないマルクス×本命が自分を見てくれないから遊びまくってるゼリグ




「珍しいな。お前が私の部屋に来るなんて。」
「まぁな~。これが無ければ来なかったな。」
革張りのソファにどさりと腰掛け、目の前のテーブルに酒瓶を置く。
「アンタの好みの酒だろ?」
「…よく覚えていたな。」
「そりゃ~、我らが炎帝マルクスの好物を忘れるわけねぇだろ?」
いつも通りニンマリと笑ってやれば、あいつもいつも通り小さく頷いて俺を見る。
「ちょうど仕事が一段落した所だ。頂こう。」
「そうこなくちゃ。」

そう、そうこなくちゃ。
わざわざ手に入れるのが面倒な酒を手に入れて、
マルクスの仕事が終わる頃合いを見計らって、
城内の人間が寝静まった深夜に、部屋にまで来たんだ。
コイツが断るはずがない。

グラスに注がれる琥珀色を眺めながら、笑みを深くする。
「…お前も、この酒は好きだったか?」
「ん?俺はアンタが好きな物はなんだって好きだぜ?」
「そうか。」
「アンタが嫌いな物はなんだって嫌いだ。」
「そうか。」

相変わらず素っ気ない返事。
いつだってそうだ。
こんなにも近くにいるのに、コイツは俺の真意に気付こうともしない。
………あるいは、全てを知った上で、俺をあしらっているのかも。
だとしたら実に愉快。
大陸一の天才・ゼリグを弄ぶ、大陸一の皇帝・マルクス。
実に素晴らしい響きだ。



小一時間程、他愛のない話題を語り合って、俺の持ってきた酒瓶は空になった。
それでも未だグラスが空にならないのは、マルクスのワインセラーのお陰。
俺は何杯目か分からない酒を飲み干して、背もたれにしなだれた。
「酔ったのか?」
「ははは、酔ったかもしんねぇ。」
頭をひねると、解いた長い髪が顔にかかる。
この仕草が色っぽいなんて言ってたのはどの男だったっけ?
緑色の将軍だったか、異国の傭兵だったか、飛竜遣いの兵士だったか…
当然だ。狙ってやってやったんだから。
髪の合間からマルクスを窺うと、グラスの酒を飲みほしたところだった。
俺の方は見もしない。
自然と喉の奥から自嘲が込み上げてきた。


「大丈夫か。」 マルクスの手が俺の髪をかき上げて、額に触れた。
意外な行動にすこし驚く。
「顔が赤いな、珍しい。呑ませすぎたか?」
大きな手が俺の頬に移動する。あつい。
かちりと目があった先には、いつも通りの無表情な顔。

あぁ、やばい。我慢できねぇ。

「…酔ったかも。アンタに。」
顔をずらしてマルクスの掌をべろりと舐め上げた。
マルクスの表情が僅かに歪む。
「すげぇ熱い。なぁ、どうしてくれる?」
手に手を重ねて問い掛ける。
マルクスの顔が更に険しくなる。

「なぁ、―――」

早く、応えろ。
緑色の将軍も、異国の傭兵も、飛竜遣いの兵士も、みんな落ちた。
だからアンタも早く落ちてこい。






25th Jul, 2017