Catch Me If You Can !  - 4 -



バルザックは珍しく後悔していた。
翌日の訓練にアイザイアは姿を現さなかった。
聞けば、熱を出したらしく寮で寝込んでいるそうだが、昨日の今日で彼がどんな状態なのかは想像に難くない。
食堂にさえ姿を見せていないということは、食事もまともにとっていないだろう。
「(それもそうだよな。あんな強姦紛いの事。)」
今更、自分のやったことを冷静に振り返り、バルザックは溜め息をついた。
さらに言えば去り際にアイザイアが言った言葉も気掛かりだった。


―――バルザックに散々乱されたアイザイアは、拘束を外されると素早くバルザックから距離を取った。
息を整えた彼は、ぐしゃぐしゃにされた衣服を何とか身に付けながら冷たく言い放った。
「取引成立です。」
「…あ?」
「僕の計画はまだ終わっていないんですから、貴方に邪魔されるのは困るんです。」
「…おい、ちょっと待て。オレは取引に乗るなんて言ってねぇぞ!」
「貴方には関係ありません。」
「お前いい加減に…」
「触らないで下さい!」
突然大声を出され、バルザックはたじろいだ。
その隙にアイザイアはベッドから降り扉に駆け寄った。
「…僕の事は放っておいて下さい。」
冷たい言葉。しかし泣き出しそうな顔で告げて、アイザイアは仮眠室を飛び出した。
バルザックは何も言えないまま、追いかけることも出来ずにその場に放心していた。―――


オレに関係ないのは分かっている。
アイザイアだってあんな事してるのは自己責任だ。
結果さえ出れば経緯なんて大した問題じゃない。
……だけど、放っておけない。
あんな事やめさせたいし、更に言えば大佐も二度と近付けない様にしたい。
ぐるぐると思考を巡らせながら、バルザックはまた溜め息をついた。

「なんだ、バルザックが落ち込んでるなんて珍しい。明日は雪でも降るかな。」
ザザルの声に、バルザックは顔を上げる。
「…うるせぇよ。」
「予想は付くけどね。謝りに行ったらどうだい?」
お見通しだ、とでも言うようにザザルはにやりと笑う。
昨日言った『気をつける』とはこういうことだったのだろうか。
「…なぁザザル、もし、オレが自分の地位を不正なやり方で買い取ってたら、どう説得する?」
「それアイザイアの話?」
「もしもの話だっつってんだろ。」
「うーん、そうだな…『ナル』かな。」
「は?」
「君はナルシストだし自意識過剰だから自分の力を誇示しないで地位を手に入れようとはしないと思うしそんな小賢しいやり方よりも上官を踏み潰してその席を奪い取るやり方の方が君らしいと思うけどもしも君がいうような不正な手段を取るとしたら相手も相当な変人だと思うねまぁ君みたいな男をおもちゃにできるなんて嗜虐性をそそられる話だけれどまぁ兎も角君を止めるなら力尽くで引き剥がすよりも外堀から攻めた方が得策だと思うよ君相手に腕力で勝てるかどうかも疑問だしプライドだけは高いからねそうだなツェリスに君が不当な取引をさせられてるって感じでリークすれば彼女が上から害虫駆除してくれるんじゃないかな勿論僕自身の手で君を取り戻すのが一番理想的だけどそれは…」
「今度は長ぇんだよ!あとさり気なく気色悪い妄想を混ぜんな!」
「自分の事棚に上げてよく言うよ。」
「な…何のことだよ!」
「君は口より手足が先に出るタイプだけど流石に手出すの早過ぎない?」
「おま…まさか……?」
「状況証拠から推理したまでに過ぎないけど、当たってた?」
しれっと言うザザルに、曖昧な返事しか返せなかった。
ザザルと言いアイザイアと言い、自分の周りにはどうしてこう口が達者な奴が多いのか。
尚も小言を続けるザザルに辟易しながらバルザックは別の意味で溜め息をついた。



「その情報、どこまでリアリティがある?」
デスクの向こうからツェリスが睨み付ける。
ザザルの助言を鵜呑みにしたバルザックは、すぐさまツェリスの執務室を訪ねた。
「あー…シャワー室で見た時、体中傷跡だらけだった。で問い詰めたら白状した。」
「そう。」
「放っとけって言われたけど放っておけねぇから報告しに来た。」
「そう、分かったわ。」
「これってマジなら大佐は処分受けるよな?」
「ええ。リアルな話、その手の噂は私も聞いてるし、裏でそういう取引があるんじゃないかって気はしてたわ。」
「マジか?」
「不自然なタイミングで賛成派が増えたから。全くあの老いぼれ共…引き摺り下ろしてやるわ…。」
ツェリスが鬼のような顔で毒づく。
「アイザイアもアイザイアね。そんな事してまで攻略作戦を進めなくてもいいのに。」
「だよなぁ。」
「報告ありがとう、バルザック。後は私から聞くわ。」
「おう。任せたぜ。」
バルザックは適当に挨拶をして部屋を出た。


その日の夕方、なんとアイザイアから呼び出された。
演習場の林にいた彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「余計な事をしてくれましたね。」
「おいおい、大佐のセクハラを報告しただけだろうが。」
「お陰で、上官とはいえ女性に自分の性体験を報告する羽目になりました。」
「そりゃあ貴重な体験だな。」
ニヤニヤ笑いながらからかうとアイザイアは不機嫌そうに溜め息をついた。

「まぁお陰で録音を渡しやすくなりましたけど。」
「……は?」
アイザイアがICレコーダーを放り投げる。
受け取ったバルザックがスイッチを入れると、そこからアイザイアの嬌声が聞こえてきた。
『……やめて下さい大佐、こんなこと…』
『いいのかい?攻略作戦を支援してほしいんじゃないのかい?』
『あ…それは…』
『それなら、何をすればいいかわかるね?』
『…ん……はい…』
バルザックはスイッチを切り、アイザイアの顔とレコーダーを交互に見た。

「何ですその顔は。僕が何の計画もなくただ大佐に抱かれてたとでも思ったんですか。」
アイザイアは冷笑した。
「思い違いもいい所ですね。別に僕は仕方なく体を差し出していたわけでは無いですよ。こういうやり方をすれば反対派を引き摺り下ろせるから実行したんです。貴方のお陰で証拠がすこし少ないですがツェリス中佐ならこれだけでも十分でしょう。」
「………」
「それで、何か僕に言う事は?」
アイザイアは冷笑を浮かべたままバルザックを睨みつけた。

「…お前演技下手だな。」
「はい?」
「全然嫌そうな声出せてねぇなこれ。オレに犯されてる時の方がよっぽど必死だったぜ。」
「…何を、」
「どうせ大佐に触られながら感じてたんだろ。」
真顔で卑猥な言葉を投げかけられ、アイザイアは赤くなった。
「この変態…!」
「てっきりお前がヤケクソであんな手段に出たのかと思ったからオレも強行手段にでたが杞憂だったな。」
「だから何度も言ったはずです!貴方には関係ないと!」
「そんな事ねぇよ。」

バルザックは一歩近づいた。反対にアイザイアは一歩後ずさる。
「お前があんな変態相手に接待してると思ったら胸糞悪ぃんだよ。」
「……」
「お前がオレ以外に触れられてたと思ったらムカつく。」
「…どういう、意味です」
「んー…」
じわじわと距離を詰める。後ずさるアイザイアは遂に木に背を付けた。
バルザックは言葉を探すように押し黙った。
この感情を一言で表せる言葉が見つかりそうだ。
「…そうだな、お前をオレのもんにしたい。」
アイザイアは耳まで赤くなり、信じられないと言うように見つめ返してきた。
「オレ以外の人間に触らせたくない。お前にオレの名を呼ばせて、お前の肌に触れたい。」
口にしてしまえばなんて単純な独占欲だろう。バルザックは気分が晴れた。
思わず口角が上がる。
アイザイアが逃げられない様に脇に手を付き、顎を掬って上向かせた。
「バルザック…」
熱に浮かされたようにアイザイアが呟く。
ぞくぞくと這い上がる愉悦を感じて、バルザックはそのまま口付けた。
アイザイアの肩がびくりと震え、思い出したように抵抗をする。
バルザックは素直に離れた。

「…っは、何を言ってるんですか…!」
「そのままの意味だぜ?」
「っ!ふ、ふざけないで下さい!」
「ふざけてねぇよ。」
バルザックはアイザイアの首筋を撫でる。
シャツの襟を少しずらすと、昨日自分が付けた跡が見えた。
「やっぱりこの位置だと見えるな。」
「!!」
アイザイアはバルザックを付き飛ばし、ついでに頬に平手打ちした。
よろけたバルザックから距離を取り、アイザイアは言った。
「僕はバルザックのものになんかなりません!」
「…そのくらい抵抗された方が壊し甲斐があるってもんだ。」
「僕に近付かないで下さい!」
「同じ部隊でそれは難しいなぁ。」
「飛ばしますよ?!」
「何言ってんだオレの力は必要だろ?」
「ぐっ…!」
アイザイアは赤い顔のまま踵を返し、寮の方向に歩き出した。
「勝手にして下さい!僕は絆されませんからね!」
「おう。明日の訓練には参加しろよ。」
「当然です!……隊長としての義務です!」
「ンハッ、そうだな。おやすみアイザイア。」
ふいに、アイザイアが立ち止った。
「…おやすみなさい。バルザック。」
律儀に挨拶を返し、アイザイアは足早に立ち去った。
その反応が予想以上にかわいらしく感じ、バルザックはその場で吹き出した。
一体明日は何をしてやろうか、どんな反応を返すのか、
そればかりが頭の中を回っていた。






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お粗末さまでした。バルアイ流行れ!