年に1度だけ、魔女の街の門が開かれる夜。
それがハロウィン。

その日だけは、どの年齢の魔女も、
人間の街へ出て悪戯をする。




T h e  N i g h t  o f  H A L L O W E E N





「うふふー、1年ぶりねー!」

どこかの国のどこかの村。
村の入り口で、思わず声をあげた。

アタシは、どれだけ悪戯しても怒られない、この夜が一番好き。

「ウィルマ、判ってるとは思うケド、去年みたいな事はやらないでネ。」
喜ぶアタシの後ろからハリムに釘を刺された。
生真面目で神経質だけど、その分頼りになる大切なパートナー。

「何よ。去年みたいな事って。」
「帰り際に人間の前で魔法使ったデショ。」
「あぁ、あれかぁ。別に怒られなかったんだしいいじゃない。」
「怒られはしなかったケド、イヤな奴に目付けられたじゃない。」
ハリムが苦い顔をして言った。


確かに、去年は無駄に張り切って、魔法を使った。
それ自体は大したことじゃないけど、後々で面倒な事になった。

学園のマドンナ・ジャクリーネに目を付けられた事。

ジャクリーネは、美人で、頭も良くて、魔法も上手い、完璧な女の子。
でもそういう子は大抵性格があまり良くない。勿論ジャクリーネも。
去年のハロウィンで妙に目立ったアタシをよく思ってないみたいで、事あるごとに文句を付けてくる。

「アタシみたいな落ちこぼれなんてほっといたって害にならないのにねぇ。」
「自分より目立つ子は許せないって心理デショ。これだから魔女って面倒なんだ。」
「アタシもハリムみたいに猫に生まれたかったなー。なんてね。」
ハリムはニャアと一声鳴いた。
彼女はアタシの使い魔で、本当の姿は真っ黒な猫。
アタシとの契約で、普段は人型をしている。


「さぁ!今年もお菓子集めようね!」
「程々にネ。ウィルマってば虫歯治ってないんだから。」
さぁ行こうと思ったところで、呼び止められた。

「こんばんわぁ、ウィルマに猫さん。」
噂をすればなんとやら。ジャクリーネだ。
今夜もいつも通り、取り巻きを従えての御登場。
ハリムは明らかに嫌そうな声で唸った。
「何よジャクリーネ。何か用なノ?」
「貴方は黙っててくれない?小汚い猫に用なんて無いわぁ。」
ジャクリーネは魅力的な笑顔で、ハリムに毒づいた。
ハリムが毛を逆立てて唸ったのは言うまでもない。

「ウィルマ、今日こそ区切りをつけようと思ってねぇ。一つ勝負しないこと?」
「勝負?落ちこぼれのアタシと優等生のジャクリーネじゃあそんなのする必要ないよ。」
「まぁ貴方になくても私にはその必要があるのよぉ。」
ジャクリーネはカボチャを象ったバスケットを差し出した。
「勝負はね、どっちが多くお菓子を集められるか。ハロウィンらしいでしょう。」
「多く集めた方が勝ちだね。いいよ。」
「魔法を使わない、ってルール加えてもイイ?」
「うふふ、いいわよぉ。」
ジャクリーネは杖を取り巻きのうちの1人に渡した。アタシも同じ人に渡す。
「ごめんねジャクリーネ。2対1になるけど優等生にはいいハンデでしょ。」
「あら?ウィルマはその猫を1と数えるの?たかが使い魔相手に随分優しいのねぇ。」
ジャクリーネの言葉に取り巻きが笑った。


「……ハリムの事、悪く言わないで。」
確かに使い魔は、契約魔女の魔力で身体を保っているから、実力が無ければ契約しない。
でもアタシみたいな未熟者が使い魔を連れているのは、力が欲しいからじゃない。
“使い魔・ハリム”は、大好きだったお祖母ちゃんが残してくれた“家族”だ。
「アタシ、アナタだけには負けたくないな。勝つよ、ジャクリーネ。」

少し怒ったアタシの声色に気付いて、ジャクリーネは綺麗な顔を歪めた。
「言ってくれるじゃなぁい。後で泣いても知らないわよ。」
「それじゃあ、1時間後にここで会いましょう。」






「ウィルマ、アリガトウ。」
街に入って暫くして、ハリムが言った。
「何が?」
「さっきの。」
「あぁ、当然でしょ?ハリムはアタシの家族なんだもん。」
「ウン、嬉しい。」
「まだ未熟者だけどね。とりあえずこの勝負に勝ってジャクリーネを見返してやろうよ。」
「言うまでもなく。」
アタシ達は、2人でお菓子を沢山くれそうな人を探しながら、村中を歩き回った。




30分程歩き回って、2人のバスケットに入りきらない程のお菓子が集まった。
と言っても、事前に魔法を掛けて容量を増やしているから、荷物は増えていないけど。
そんな時に、ハリムが驚いたような声をあげた。

「ウィルマ!あれ!」
ハリムが指した先には、吸血鬼とフランケンシュタインと狼男。
端から見ればただの男の子3人連れだけど、彼等の額には八芒星のマークが見えた。
「八芒星はジャクリーネの紋章だヨ!あいつルールを破った!」
「あーやっぱり。破るだろうとは思ってたけどね。あれは“操り人形の呪い”かな。」
「あの子達にお菓子を集めさせてるって事?負けちゃうヨ!」


あの魔法はアタシには高度すぎて解けない。(杖も預けて来ちゃったし)
でも、アタシには絶対ジャクリーネに勝つ自信があった。
それと、作戦も。


「ボク達も魔法を使おうヨ!先に破ったのはあいつだし。」
「嫌だよ。ジャクリーネと同じレベルまで成り下がりたくない。」
「じゃあ…」
「大丈夫。ちゃんと作戦考えてあるよ。」





約束の時間。
アタシもジャクリーネも、ぴったりの時間に着いた。
「負ける覚悟は出来たぁ?」
「そのままお返しするよ。それ。」

アタシとジャクリーネは、同時にバスケットをひっくり返した。
魔法で底なしになったバスケットからは、どんどんお菓子が出てくる。

コロン
最後の飴玉を吐き出して、バスケットは空になった。


アタシのが。

「あはははは!私の勝ちだわ!残念だったわねぇウィルマ!」
ジャクリーネの高笑いに、ハリムが尻尾を立てる。
アタシはにやにや笑いにならない様、頬に力を入れながら、穏やかな声で言った。

「ジャクリーネは、小石を食べるの?」


「……何ですって?」
ジャクリーネは自分のバスケットから出てきた飴玉を摘んで包装を剥がした。
中から出てきたのは、飴玉サイズの小石。
「―――――っ!」
ガサガサと、全てのお菓子の包装を剥いでいく。
中には本物も混ざっているけど、大部分が小石か小枝の偽物。


本物の量だけ比べたら、アタシの圧勝。

「ジャクリーネの負けだネ!」
ハリムがとどめを刺した。



「一体、どういう事?」
怒りに肩を震わせながら、ジャクリーネが呻いた。
「ジャクリーネ、アナタ、子供に“操り人形の呪い”掛けたでしょ。」
「……掛けてないわよ。」
「“操り人形の呪い”は便利だけど、術者の言った事しか出来ないっていう弱点があるの。」
「……だから?」
「たぶんその子達には『沢山お菓子を集める』って言う命令が出されてると思ったの。」
「……」
「それで、偽物お菓子を沢山作ってその子達に『このお菓子と交換しない?』って言ったの。」
「……交換、したの?」
「うん。偽物お菓子の方が多かったから、交換した方が量が増えるって考えたんだろうね。」
「魔法は使ってないからズルじゃないデショ?誰かサンと違って。」


ジャクリーネは何か悪口を言いたそうに口を開いたけれど、音になる前に言ってやった。
「じゃあ、アタシはもう帰るね。せっかく自分で集めたお菓子なんだし、みんなで食べなよ。」
「ハッピー・ハロウィン!!良い夜を!」

素早く箒に乗って、夜空へ飛び上がった。
一瞬でジャクリーネが点になる。




「あーすっきりした!ジャクリーネのあの顔見た?」
「サイコウ!これでしばらくは突っ掛かってこないネ!」





ハロウィンの夜、一番の悪戯の後は、

お菓子を頬張りながらの空中散歩。





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これを書くまでウィルマとハリムには名付けてませんでした。
(ていうかこれを書きたくて名付けた。)
自分、ネーミングセンス無いなぁ…。
ライバルキャラを作りたくて、ジャクリーネ登場。


31st Oct, 2006

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